「創氏改名―日本の朝鮮支配の中で」

以下、ミクシィレビューに書いたものの転載。



創氏改名についての著作というと「創氏改名」(宮田節子・金英達・梁泰昊)、「創氏改名の研究」(金英達)、「創氏改名の法制度と歴史」(金英達)がある・・・というより、この三冊しかなかった(日本では)。

著者によれば「一九八○年代まで創氏改名を専門にあつかった研究論文は、一本もなかった(p12)」とのこと。そのため、創氏改名についてきちんと知られることがなく、また麻生太郎氏の発言に見られるような誤解もまかり通っていた(いる)。その意味で、新書という形で創氏改名についての著作が刊行されたことを喜ばしく思う。

本書は前述の研究を踏まえた上で、さらに近年の調査・発掘によって明らかになった研究をも取り入れ、かなり密度の濃い内容となっている。本書によれば、創氏改名とは様々な側面を持ち、また様々な思惑をはらみつつ実施された政策であった。朝鮮総督府としては内鮮一体(=朝鮮人の「皇国臣民化」)を推し進めると同時に、朝鮮で強い結束力を持つ「宗族集団」を弱体化させ、日本の天皇を頂点とする「家制度」に組み込む狙いがあった。一方警察当局や日本内地側は、朝鮮人の名前が完全に「日本人化」することを恐れ、制度施行後も日本人との区別がつくようにするよう求められた。つまり「同化」と「差異化」というアンビバレントな側面をはらんでいたのである。この辺りは戦後から現在までの在日コリアンに対する政策や日本人の意識にも通じるものがあるだろう。

また、麻生氏の発言にも見られる「強制ではなく、むしろ朝鮮人の要望によってなされた政策」という見方に対する反論もなされている。本書で提示される史料から、当時総督府や関連官庁がいかに慎重かつ巧妙に創氏改名を実施していたかが読み取れる。建前では「強制ではない」としながら、様々な圧力や懐柔策などによって創氏政策を推し進めた手法を著者は「自発性の強要」と呼ぶが、これもまた当時の対植民地政策を考察する上で重要な視点と言える。


欲を言うならば、戦後多くの在日コリアン通名(通称名)を使い続けてきたことと創氏改名政策の繋がりについて、もう少し詳しく論じて欲しかったが、新書という性格上難しかったのかもしれない。

創氏改名―日本の朝鮮支配の中で (岩波新書 新赤版 1118)

創氏改名―日本の朝鮮支配の中で (岩波新書 新赤版 1118)