犬糞食衛と犬の子と、あるいは日帝三十六年下の「パンク」

水野氏の「創氏改名―日本の朝鮮支配の中で」に興味深い記述があった。<引用開始>

創氏改名への抵抗の事例として、「犬糞食衛<いぬくそくらえ>」などと届出た者がいたと説明されることがある。歴史書では、文定昌『軍国日本朝鮮強占三十六年史』の記述がその始まりとされるが、「犬糞食衛」という届出がなされたというのは根拠のない伝聞として批判されている(金英達創氏改名の法制度と歴史」)。ところが、高等法院検事局の資料には、それに類似する事件が記されている。

慶尚南道東莱邑の檜山錫斗(朝鮮名不明、製棺業・五四歳)は、「昭和十七年十一月二日釜山府寿町福成旅館庭先に於て金光今述外二名に対し、『〔中略〕一昨年自分は犬の子と創氏して東莱副邑長に書類を差出したら、何故犬の子と創氏するかと理由を問うので、自分は朝鮮人は変姓せば犬の子、牛の子と呼ばれるから、創氏は変姓であるから犬の子と創氏したと答えたら、副邑長は自分を叱り、もし斯様<かよう>な事を警察に知られたら貴殿は処罰されるから改めて届出よと云われ、檜山と創氏したが、朝鮮人は存在がない』と放言」したとして、懲役六ヵ月の判決を受けた。

「創氏は変姓」と考え「犬の子」と届出ること自体が創氏への批判・抵抗であるが、そのような届出をしようとしたと他人に語ることさえも取締りの対象となったのである。(p119-120)<引用ここまで>



金英達氏の「創氏改名の法制度と歴史」は以前図書館で借りて読んだ。「犬糞食衛」の話は、確か宝島から出た「嫌韓流」ムックでも紹介されていたから、そこそこ知られているかもしれない。その他に「田農丙下<でんのうへいか→てんのうへいか>」という届出もあったという話もあり、これも「根拠のない伝聞」とされていた。



しかし、水野氏はこの記述の後でこんな例も紹介している。<引用開始>そのほか、総督府あてに「朝鮮風習を保護すべし、氏制度を中止すべし」と書いた投書や、「天皇族皆殺郎」「昭和亡太郎」と創氏するのは許可されるかと書いた葉書が送られてきたとされている(『昭和一五年前半期朝鮮思想運動概況』)。(p123)<引用ここまで>




・・・「天皇族皆殺郎」に「昭和亡太郎」。




・・・パンクだなあ。

創氏改名―日本の朝鮮支配の中で (岩波新書 新赤版 1118)

創氏改名―日本の朝鮮支配の中で (岩波新書 新赤版 1118)

創氏改名の法制度と歴史 (金英達著作集)

創氏改名の法制度と歴史 (金英達著作集)