入管施設での自殺(1)


もっと前に取り上げる予定だった話題。


強制退去目前の中国人男性、東京入国管理局収容所内で自殺―東京


1日、東京入国管理局は収容していた中国人男性(36)が先月20日、自殺を図り、翌日死亡する事件があったと発表した。(…)


2009年4月1日、華字紙・中文導報のウェブサイトによると、東京入国管理局は収容していた中国人男性(36)が先月20日、自殺を図り、翌日死亡する事件があったと発表した。中国新聞網が伝えた。


死亡したのは遼寧省出身の楊維剛(ヤン・ウェイガン)さん。1月30日に収容された後、自主帰国を拒否したため、強制退去の手続きが取られていた。楊さんは先月20日午前9時ごろ、収容されていた部屋にあった電気ポットのコードを利用して自殺を図っているのを発見され、すぐに近くの病院に運ばれたが、翌21日未明に死亡が確認された。


楊さんには昨年来日した妻のほか、中国に10代の息子と年老いて病気がちな両親がいる。事件を重視した中国の在日本大使館は東京入管に対し、楊さんへの「非人道的な行為」がなかったかどうか、詳しい経緯について正式に回答するよう求めた。中国国内では早くもこの事件に対する批判の声が巻き起こっているという。


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090401-00000032-rcdc-cn


この件についてはミクシィでもニュースになっていたのだが、それについて書かれた日記のほとんどが「中国が非人道的行為などと言える義理か」とか「中国は自殺したくなるほど帰りたくない国!」いうようなものだった。


このニュースを知ってすぐ思い出したのが、土井香苗「“ようこそ”と言える日本へ」に書かれていたエピソード。


二○○三年四月、私は日本にいる難民申請者に面会するため、茨城県牛久市にある外国人収容施設、「東日本入国管理センター」を訪れました。JR上野駅から常磐線で約一時間、そこからさらにタクシーで約二○分の距離にあります。


在留資格をもらえないというだけで、期限も定めず外国人を強制的に収容するこの施設は、その明らかな実態から、一般に「強制収容所」と呼ばれています。また、ここに閉じこめられた外国人からは、「刑務所」や「ウシク」などと呼ばれています。


東日本入国管理センターは、全国に三カ所存在する外国人専用の大規模な強制収容所、正式には「入国者収容所入国管理センター」の一つです。東日本以外には、西日本入国管理センター(大阪府茨木市)と大村入国管理センター(長崎県大村市)があります。


これらの施設に、難民申請者や、家族と引き裂かれた外国人たちが、数ヵ月から数年間も強制収容されていることを知る人は少ないのではないでしょうか。例えば、二○○○年二月末時点では、少なくとも五○名の難民申請者が、日本国内の収容施設に強制収容されていました(東京アフガニスタン難民弁護団調べ)。


私がこの日面会したアフガニスタン人難民申請者アブドラさんは、日本政府によって難民と認定されず、アフガニスタンへの強制送還命令を受け、強制収容されていました。そして、その難民不認定処分や強制送還命令の取消しを求めて裁判中でした。


二○○二年一○月に収容されてから、すでに六ヵ月が経過していました。アブドラさんは会うたびに、「心臓が針で刺されるように痛い」「心臓を下にして寝ると心臓がバクバクして眠れない」「腰が痛くて歩けない」「足が麻痺してしまった」と、体調不良を訴えます。


医師からは、強制収容されてから極端に体調が悪化し、胃炎疑、狭心症疑、椎間板ヘルニアPTSD(心的外傷性ストレス障害)疑、うつ状態、などと診断されていました。狭い房の中に閉じこめられているので運動量が足りないことや、「アフガニスタンでの逮捕・拷問経験によりPTSDに罹患し、それが日本での強制収容によりフラッシュバックして身体症状化している可能性がある」ということでした。


強制収容される前は元気だったアブドラさん。面会を終えると、もう歩く力さえなく、車いすに乗せられて去っていきました。遠ざかる丸まった背中、骨が浮きでるまでに痩せた手首が、脳裏に焼きついて離れません。強制収容されてから一○歳は年をとったように見えます。(まえがきp6〜8)


収容された難民たちは訴えます。


「この収容所の中は刑務所と同じ。でも悪いことをして、裁判を受けて刑務所に入る人のほうがまだましだ。それは終わりが見えているから。刑期の終わりに向けて希望を持ってがんばれる。私たちは、未来に対する希望まで奪われた」


一○○万部を超えるベストセラー『世界がもし一○○人の村だったら』(マガジンハウス)の再話者、池田香代子さんも、東日本入国管理センターに足繁く通い、難民たちを励ますために面会を続けた方です。そして、池田さんは、私にこうおっしゃいました。


「今、日本に、アウシュビッツがあるんです」


池田さんは、ユダヤ人精神医学者ヴィクトール・E・フランクルアウシュビッツ収容体験を記した『夜と霧 新版』(みすず書房)の翻訳者でもあります。フランクルは、アウシュビッツで最も大量の死者を発生させた原因は、過酷な労働条件でも、悪化した食糧事情でも、季節の変化でも、伝染病疾患でもなく、収容がいつ終わるかわからないことに対する絶望だったと言います。そして、日本で強制収容された外国人たちの収容の期限は……ない。池田さんをして、「今、日本に、アウシュビッツがある」と言わせる理由が、ここにあるのです。(まえがきp10〜11)


自殺した楊繊剛さんが収容されていたのは「ウシク」ではなく港区の収容施設のようだし、また彼はたぶん難民ではないのだろう。


ただ、施設では難民申請者もそうでない非正規滞在者も同様に扱われているだろうし、非正規滞在者だからといって非人道的な扱いをしてはならないのは当然のことだ。


今のところ、自殺の原因と収容されたこととの因果関係は不明だ。ただ、土井氏の著書を読む限り、外部から遮断された収容施設内には多くの問題が起こり得るし、またそうした問題が起きても発覚しづらいということもあるだろう。


もちろん、楊さんの自殺が収容施設の問題に起因するという即断もできない。いずれにせよ、入管当局は中国の求めに応じ、きちんとした調査を行うべきだし、今後の動向についても注視する必要があると思う。


ようこそ

ようこそ"と言える日本へ" 弁護士として外国人とともに歩む

※Arisanが人権軽視が当たり前の国というエントリーで、入管の収容施設(楊さんが収容されていた施設かどうかは不明)について取り上げた番組について書かれている。この番組を観ていないので何とも言えないが、楊さんの自殺と何か関わりがあるのだろうか。このタイミングでそういう番組が放送されたのは入管に対するイメージアップのため、というのは考えすぎだろうか。