「59年外務省見解」は朝日だけが載せたのではない


「強制連行は200人程」という誤認の記事で書き忘れていたこと。


ここで紹介した1959年7月13日の記事についてだが、ネットを見ると、これが「朝日新聞の記事」であることを殊更あげつらっていることが多い。要は「(サヨクであり、在日の味方であるはずの)朝日新聞がこんな記事を書いてる(ざまぁ)」ということらしい。


実際ネットで出回っているのはなぜか朝日新聞の記事ばかり。しかし内容を読むと、どうやら外務省の見解をそのまま発表しただけで、別に朝日独自のものではないように思える。


そんな訳で少し前に国会図書館に行った際、当時の他の新聞の記事を探したところ、毎日新聞や読売新聞も同じような報道をしていたことがわかった。


本来ならこの記事の画像をアップしたいところなのだが、生憎スキャナーがないので、文章をこちらにアップした。





これを見ると、毎日新聞の記事は朝日新聞とあまり違いはないが、読売新聞ではより詳しい記述が見られる。特に外務省がこの発表をした動機について、次のように書かれている。


これは韓国方面から日朝帰還協定の妨害や、抑留邦人漁夫を釈放しない口実として、在日朝鮮人の大部分は日本政府が強制的に労働させるため連れてきたものであるという悪宣伝が、世界中に流布されている現状に対抗して、その実情を公表したものである。


外務省はこれまでこの種の宣伝活動にあまり重きを置いていなかったが、ジュネーブにおける日朝会談にさいし、日本代表団がとった不手際な啓発活動から北朝鮮側の主張に日本側が押されているとの印象を各国に与え、とくに韓国側の激しい宣伝活動は、結局アメリカをはじめ自由陣営に相当アピールする効果を収めている。このため当初即時承認を見込んでいた赤十字国際委までが、慎重審議の態度に変るなど思わぬ障害を受けている。日赤代表団は「欧州系某通信社は韓国側と親しく、また西欧系大通信社も、それぞれ国家的立場を反映した記事を流している」との釈明を、このほど政府に打電してきたが、外務省としては釈明を信じないわけではないが、それ以前の日本の立場、主張を明らかにする啓発活動が、全く行われた様子もないことに驚いている。とはいえ、外務省自体としても北朝鮮帰還問題について、国内的に異論がほとんどなかったため、国内的はもちろん、対外的にも啓発活動をあまり行わなかった手落ちは認めそこで今回の異例の発表を皮切りに、岸首相の外遊に当って外国PR会社と契約を結ぶなど、帰還問題に限らず、啓発活動に重点を置くことになっている。


また、読売では、朝日・毎日が「ごく少数」としか書いていない「国民徴用令による徴用労務者」の数を「約九万六千人」と具体的に書いている。


ただこの数字は、大蔵省管理局の資料「日本人の海外活動に関する歴史的調査」の数字210975人*1と大きなズレがある。


本来なら資料をつき合わせて検証しなければならないところだが、現在のところこの外務省見解の元となった資料は公開されていないようだ。


ただ、ひとつ気になることがある。この「約九万六千人」という数字は、雁屋氏も紹介している1991年に日本から韓国に渡された「強制連行者の名簿」の人数約九万に近い。


これはあくまで根拠の薄い憶測に過ぎないが、もしかすると59年に発表された「約九万六千人」は、この氏名が明らかになっている被徴用者の数なのかもしれない。


水野直樹氏によれば、外務省には旧内務省から引き継いだ数多くの未公開資料が存在するという。こうした資料が公開されれば、かなり詳しいことが明らかになる可能性があるのだが・・・。

*1:1944、45年度の朝鮮半島における対日本本土の新規徴用。なお、朝鮮半島における徴用の始まりは1944年9月からと言われることが多いが、それ以前も軍要員の徴用などは少数ながら行われていたようで、先の数字に同資料の1941〜43年度の数字も合わせると計222082人となる。